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小説サイト宣言

2003年5月30日

小説サイト宣言
 長い間、ろくに小説をアップせず、日記ばかり書いていた。いつのまにか日記サイトと名乗っていた。小説サイトではあまり読者が来ないからだ。アクセス数……その魔力に取り付かれ、ひたすら日記を更新し続けた。小説を書く鍛練の場として開かれたはずのこのサイトの理念はくしゃくしゃに丸められて、ゴミ箱に投げ込まれた。
 だがまだ「小説を書きたい」という火は消えていなかった。心の中でくすぶり続けたその火は、気が付かぬうちに僕の全てを丸焼けにする大火事の火種となっていたのだ。僕はひたすら小説を書き続けた。右脳で荒れ狂うイマジネーションの嵐が、左脳に流れ込んで文章になっていく。あふれ出る言葉に文字を書く手が追いつかず、無理やり押さえつけるように乱暴に字を書き続けた。
 いつしか僕は泣いていた。小説を書く喜びに。僕は小説を書くのが好きなのだ。それだけは地球がどうなろうと絶対に変わらないのだと思った。
 そしてひとつの作品が書きあがった。既存のどの大衆小説よりも娯楽的であり、古典と崇められる純文学者たちのくだらない自虐文章よりも遥かに深い。あらゆるジャンルを包括し、超越して、最高の、本物の小説として完成されたものであると自負している。
 ここにその小説を公開する。読んだ者は一人の例外も無く感動にうち震え、涙する事であろう。これは小説サイトとしての「夢重力空間」、ひいては小説そのものの復興なのだ。
 それでは作品をご覧いただこう。




恋愛サイコホラーサイキックカンフーアクション推理ファンタジーサスペンス純文学小説
「そしてだれもいなくなった」


「好きだ!」
 僕は思い切って告白した。
「ごめんなさい」
 そして当って砕けた。
 その時――僕の心にどす黒いものが生まれた。
「こんな女、殺しちまえよ」
 どこからともなく声がした。その声の主を探そうとして、愕然とした。目の前に、僕がもう一人立っていた。
「お、おまえは誰だ?」
「俺はおまえさ。おまえの願望をかなえるためにやってきたのさ」
 彼の手で何かが光る。――ナイフだ!
「あ、あぶない!」
 ナイフが彼女に迫る。しかしナイフは彼女の体を蝕む直前で、火花を上げて弾かれた。
「な、なにっ!?」
「あぶないわね、死んじゃうじゃないの。……私が普通の女の子だったらね」
 いつのまにか彼女の体を青白いオーラが包んでいた。そしてその手から雷撃が放たれ、彼の体を貫く。
「ぐわっ!?」
 彼は身をよじり、苦痛の声を上げた。
「アチャッ〜!」
 そしてとどめとばかりに放たれた三日月蹴りが炸裂し、彼は道端に積上げられていたダンボールの中に突っ込んだ。
「あぶなかったね」
 僕は彼女に近寄って声をかけた。しかし彼女は崩れたダンボールを見つめたまま、何かを考えているようだった。
「……果たして犯人は誰だったのかしら?」
「え? そ、そりゃあいつだろ」
「あいつって?」
「あのナイフを持ってた男だよ」
「いえ、違うわ。見て」
 彼女は崩れたダンボールをどかした。そこには誰もいなかった。
「ば、馬鹿な……確かにあいつはここに……」
「最初からナイフを持った男なんていなかったのよ。――巧妙な心理トリックだわ」
「そ、それじゃ犯人は誰だって言うんだよ」
「犯人は……この中にいるわ!」
 ドーン! アップになる彼女。
 ドーン! アップになる僕。
 ドーン! アップになる通りすがりのネコ。
「それは……あなたよ!」
 彼女は僕を指差した。
「ふっ……バレちゃ仕方がない」
 荒波が打ち寄せる崖の上。僕は潮風の中、ニヤリと笑った。
「そ、そんにゃ馬鹿な! いったいどんなトリックを使ったにゃ!」
 通りすがりの猫は驚きの声を上げる。
「彼はナレーションを利用したのよ」
「にゃレーション?」
「ええ。彼はこの小説が自分の一人称による語りで進む事を利用したのよ。地の文で『どこからともなく声がした。その声の主を探そうとして、愕然とした。目の前に、僕がもう一人立っていた』と言えば、みんな本当にそうなのだと錯覚するわ」
「にゃ、にゃんとっ!? で、でも、それだとこの展開も彼が操作しているのにゃ?」
「いえ、登場人物が作品のストーリーを捻じ曲げるのには相当なパワーが要るわ。彼が操作できたのはあの部分だけだったはずよ。おしかったわね、もし私がエスパーかつカンフーの達人でなければ、犯人はあなたから分離した負の魂という事になったのに」
「さすが僕が好きになった女性だ……でもひとつだけ間違っていることがあるよ」
「え?」
「ぼくにはまだ……ストーリーを捻じ曲げる力が残ってるんだ」
 僕がそう言うと、彼女は崖の方に一歩足を踏み出した。
「か、体が……勝手に……」
「や、やめるにゃ!」
 僕は飛びついてくるネコを蹴飛ばした。そうしているうちにも彼女は崖に近付き、とうとうその身を……
 バキュンッ!
「そこまでだ!」
 銃声が響き、僕のすぐ近くを何かが掠めた。少し離れたところに、拳銃を構えた船越英一郎が立っていた。
「キング・オブ・サスペンスの登場か……終りだな」
 思えば崖っぷちが舞台になった時点で、もう僕は終わっていたのかもしれない。2人と一匹に囲まれ、僕は逃げ場を失った。
 ……いや、果たしてそうだろうか。そうだ、まだ逃げ場所はある。誰も追って来れない、一番の逃げ場所が……
「おい、やめろ!」
 船越英一郎の声を無視し、僕は崖に身を躍らせた。もう誰も僕を捕まえる事は出来ない。何も僕を縛るものは無い。僕は肉体という足枷から逃れ、真の自由を手に入れるのだ。誰もいない、僕だけの世界へ……


 そして誰もいなくなった(読者が)。

〜END〜



2003年6月20日

 小説サイト宣言(5月30日の日記)からはや20日、「なんだ、たいそうなことを言ってたけど、やっぱりいつものダンディーか」そう思った方も多いだろう。しかしあれはエンターテイメント小説を志している私にとって紛れもなく「小説サイト宣言」そのものであった。だがあれをあくまでも「おふざけ」として捉えている方も多いだろう。そこで今回は私がいままで培ってきた集大成として、純文学作品をみなさまにお届けしようと思う。この話は死を決意した青年が友人の死を通し、生きることに再び希望を見出すという物語である。読後、みなさまの心に何か残れば幸いである。


「白い光」

 死のうと思っていた。人の世の争いやしがらみに疲れ、生きようとすればするほど、なりたい自分からは遠ざかっていくように思えた。そうまでしなければ生きられないのなら、いっそなくなってしまおうと思った。準備は万端だった。首を吊るための道具は全て目の前に揃っている。

 まず首をかけるドーナツ。ロープだと食い込んで痛そうだからだ。前もって頭がすっぽりとはいる大きさのドーナツを揚げておいた。それと天上からドーナツを吊るすためのチューインガムに、首を吊っている間の苦しさを紛らわすために口に含むチョコレート。

 さらば我が人生。椅子に乗り、天上から吊るしたドーナツに頭を通す。そして椅子を倒し、宙に身を預けた。しかしドーナツは体重を支えきれず、自殺の計画とともに脆くも崩れ去った。
「くそ、揚げ方が足りなかったか」

 その時、家の扉が開いた。友人だ。遊びに来たのだろう。手には大量の物が入ったビニール袋を持っている。友人は入ってくるなり言った。
「どうした、お菓子パーティーでもしていたのかい」
「君の目は節穴かね。どうしたらこれがお菓子パーティーに見えるんだ。私は自殺しようとしているんだよ」
「自殺だって。糖尿でかい」
「違う。見ればわかるだろう。首吊りだよ。君のような気楽に生きている人間にはわかるまい」
「まあ、なんでもいいさ。自殺なんて後にしろ。ビールでも飲もうじゃないか。肉が安かったから買ってきた。すきやきでも作ろう」
 友人は鼻歌まじりに、袋から取り出したものをテーブルの上に並べていった。缶ビール、牛肉、ネギ、豆腐、しらたき……。人が自殺しようとしている時になんと無粋な男だろうか。怒りが体中の血を頭に押し上げた。
「おまえなど豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ!」
 豆腐を手に取り、友人の頭めがけて振り下ろす。もちろん、殺すつもりなどなかった。しかし思いのほか豆腐は鈍い音をあげ、友人は床に倒れた。
「な、なんと。まさか本当に豆腐の角で人が死ぬとは……」
 私は自分の手に握られた豆腐を見つめた。白く震える絹ごし豆腐。まったく普通の豆腐だ。
 こんな柔らかいものでも人を殺せるとは。その時、私は思った。こんな豆腐にすらそんな隠された力があるのならば、私にもまだまだ秘められた可能性があるのかも知れない。私は豆腐の白い輝きに、生きることに対する希望を感じた。私は生きよう。そして人生をやり直すのだ。


 殺人罪により終身刑

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