
2003年5月10日いろいろおかしい小説
「もしもし、大丈夫ですかっ! もしもし!」
重い目蓋を開けると、彼の顔を覗き込んでいる白衣の男がいた。
「あなたは・・・」
自分の置かれている状況を確認しようと、彼は身を起そうとする。しかしすぐに白衣の男に止められてしまった。
「安静にしてください。私は救急隊員です。もう大丈夫ですよ。あなたは裸で街中に倒れていたんです。擦り傷だらけでね。何があったかわかりますか」
「・・・何も思い出せない」
「あなたの名前は?」
「僕は・・・僕は・・・」
「心配しなくて大丈夫ですよ。事故などのショックで記憶が一時的になくなるのはよくあることです」
「はぁ、そうですか」
なんかそういうのとは違いそうだと思いつつも、彼は救急車の振動に身を任せた。
医者は困り果てていた。意外と元気だった彼は、とりあえずレントゲンをとった後、消毒と診断のために診察室に連れてこられていた。
「ふ〜む」
その医者は彼のレントゲン写真を見ながら唸っていた。心底困り果てている様子だった。その写真がずいぶんと一般人とは違うものだったからだ。
「これは・・・ミサイルかな?」
写真の右ひじ辺りに写った細長い円筒形の影を見ながら医者が言う。
「で、胸部にあるこの影は・・・機関銃か」
「いえ、パルスレーザーだと思いますよ」
理由はわからないが、その影はパルスレーザーだという確信があった彼は、親切心から医者にそう教えてあげた。しかし医者はプライドをいたく傷つけられたらしく、むっとした調子で彼をたしなめた。
「君ねぇ、そういう素人判断が治るものも治らなくしてしまうんだよ。『生兵法はケガの元』と言うだろう」
「はぁ、すいません」
しかし医者の方もそうは言ったものの、まったくわけがわからない。
「とりあえずお薬三日分出しておきますから」
医者は処方箋に「ビタミン剤」と書くと、それを看護婦に渡して彼を退室させた。
丁重に病院を追い出され、彼は途方にくれた。
「一体、僕は誰なんだろう・・・?」
オチは読まれてそうだけどつづく
2003年5月11日
前回までのあらすじ
弱小、知恵木高校野球部に突然に現れた転校生、月飛馬。彼は昭和に絶滅したと言われる消える魔球の使い手だった! 月の活躍で連戦連勝を重ねる知恵木野球部。しかし彼らの前に強豪、LP学園が立ちふさがる。ところが毎年10人以上の「10年に一人の逸材」が入部するLP学園だったが、消える魔球の前に手も足も出ない。その時・・・
「お遊びはここまでだ」
ベンチにひかえていた千年に一人の逸材、中浜がついに代打としてバッターボックスに立つ。
「打てるものなら打ってみろ!」
自信たっぷりに消える魔球を投げ込む月。そしてその自信どおり、白球はキャッチャーのミットに吸い込まれた。完全なストライク。しかし審判は無情にも「ボール」と告げた。
「消える魔球、破れたり・・・」
「なっ、ど、どうして・・・」
「これぞ秘儀、『消えるストライク』!」
恐るべき中浜の術の前に、月は打ち勝つ事が出来るのか!? ただ単に審判が買収されているだけではないのか!? 果たして・・・
・・・なんて話ではいつも通りないです。昨日の日記から読んでね!
彼は行く当てもなくさ迷い歩き、とある小さな公園のベンチで一夜を明かした。目を覚ますと太陽は真上に昇っており、昨夜は静まり返っていた公園もすっかりお子様たちの発する騒音で満たされていた。
「お兄ちゃん、何してるの?」
ベンチで寝転がっている彼が不思議だったのか、一人の少女が声をかけてきた。
「いや、別に何もしてないよ。ただ寝てただけ」
「お家に帰らないの?」
「家? どこにあるかわからないな。そもそもあるのかどうか・・・」
「ふ〜ん・・・」
少女はますます不思議そうに彼を見た。
「これあげる!」
彼をかわいそうに思ったのか、少女は彼に飴玉を差し出した。黄色い包み紙の、レモン味の飴。少女の体温で溶けたのか、紙越しにもちょっとベトベトしていた。
「ありがとう」
「じゃーねー!」
もう気が済んだのか、少女は公園を走り出ていった。その姿は公園を囲む生垣の向こうにあっという間に消えていった。あいかわらず公園では子供たちがはしゃぎながら走り回っている。
「さて、どうしたものか・・・」
彼はぼーっと公園内を見渡した。
「ギャオオオオッ! 今日こそおまえを倒し、地球を征服してやるぞ!」
「そんなことはこのハイパーマンが許さない!」
その時、怪獣ものの人形を持った子供が彼の前を横切った。
(地球を・・・征服?)
何かが彼の心に引っかかった。失われた記憶がもう少しで取り戻せそうな気がした。その言葉を頼りに、彼は自分のメモリーのスキャンを開始する。ほどなくして大気圏突入の際に切断されてしまった神経回路が発見され、すぐさまバイパスが作られた。リンクが回復し、すべての記憶装置がオンラインとなる。途端、フリーズしていたプログラムが再起動され、次々と仮想モニターに表示された。
(離陸プログラム・・・実行済み。宇宙航行プログラム・・・実行済み。大気圏突入プログラム・・・強制終了。システム異常の恐れあり。アンインストール実行。偵察プログラム・・・科学レベルB未満につき省略。征服プログラム・・・起動開始。フレーム各部異常なし。エネルギー反応炉レベル安定。偽装生態細胞損害軽微。各武装オールグリーン)
「そうだ・・・僕は・・・」
彼は各種センサー類が正常に作動し始め、ぼんやりとしていた頭が急速に冴え渡っていくのを感じた。しかし同時に眠りに落ちるように意識が遠のいていく。正常にプログラムが作動し始めたいま、緊急用の自己判断プログラムは必要ないのである。後は効率的に地球を破壊するように作られたプログラムが勝手にやってくれる。文字通り機械作業だ。
「僕は・・・地球を征服するためにやって来た、『地球征服君2号』だったんだ・・・」
すぐに彼の意識はなくなった。後に残ったのは一体の兵器・・・
(プログラム完全起動。これより地球征服を開始)
地球人にカモフラージュするために装甲の上に貼られていた生態組織を突き破り、内蔵されていた武器が次々と顔を出す。偽者の血に濡れた砲塔が本物の血を求めてターゲッティングを開始した。
あんまりつづけたくなくなってきた・・・
2003年5月12日
前回までのあらすじ
牛肉をソテーし、たまねぎ、にんじん、じゃがいもも一緒に炒め始める母。十分に炒まったところで水を入れ、ぐつぐつと煮始める。
(今日はカレーか・・・)
ダンディーがそう思ったその時、母が取り出したのはなんと納豆であった。
(ば、馬鹿なっ! いったい何をする気だ、母さん!)
風雲急を告げるダンディー家の食卓にヌーベル・シノワの嵐が吹き荒れる。今夜の夕食は果たして!?
・・・なんて話ではないのはいつものとおりです。一昨日の日記から読んでね!
閃光が空気を焦がしながらビルに突き刺さる。ガラスと鉄筋コンクリートが一瞬で沸点に達し、灼熱の雨となって逃げ惑う人々に降り注いだ。
あたり一面が火の海と化し、そこには静かな町並みだったころの面影は少しもない。平和を守るべき警察のパトカーはガードレールに突っ込んで炎をあげていた。
そこにやかましい音を立てながら、ふらふらと3機のヘリコプターが現れる。自衛隊の攻撃ヘリAH−1Sだ。燃え盛る炎のせいで誕生した無遠慮な気流。その中をおっかなびっくり飛ぶ姿はお世辞にも強そうとは言えなかった。すぐざま彼のセンサーがその性能を暴く。
(効率の悪い内燃エンジンに火薬を利用した原始的な武器・・・危険レベルD)
彼は攻撃ヘリに向けて手をかざす。途端、攻撃ヘリはビルの壁に激突し、ただの火の発生源のひとつと化した。彼の発する電磁波で電子機器がお釈迦になってしまったのである。
(抵抗戦力皆無。予想征服完了時間は36時間)
彼は地球を征服するべく移動を開始した。その時・・・
(・・・!)
道路の上に一人の人間が倒れていた。
(メモリーに該当記録あり)
彼は近付き、顔を確認する。それはさきほど彼に飴をくれた少女だった。
(生命反応無し)
彼はさきほど貰った飴を探して自分の体をスキャンした。しかし火傷しそうなほど熱された空気の中で、飴はとっくに溶けてなくなっていた。ベタベタの黄色い包み紙だけが、ボロボロになった洋服のポケットから出てきた。それを見たとき、彼の神経回路に不思議な電流が流れた。
(索敵プログラムに異常発生)
本来なら次のターゲットを探していなければならないセンサー類が、全て動かなくなった少女に向けられていた。彼は胸の奥が痛むのを感じた。自己判断プログラムが勝手に立ち上がろうとして、システム全体に高負荷をかけているのだ。
(緊急事態。征服プログラム終了。自己判断プログラム起動)
再び彼の意識が戻った。だが彼はそれまでと同じように、呆然と少女の死体を見つめていた。しかし少しだけ先ほどまでと違うところがある。彼の視界が曇っていたのだ。それは頭部光学センサーを保護し、付着する汚れを落とすための洗浄液が勝手に漏れ出しているせいだった・・・
つづく
2003年5月13日なんだこりゃ?
前回までのあらすじ
「今日、お父さんもお母さんも家にいないの」
付き合って3ヶ月。恵理子のその言葉に聡は内心、飛び回りたいくらい喜んでいた。しかし表面上はクールに勤め、車で彼女の家へと向かう。心の中は初Hへの期待でいっぱいだった。
「上がって」
とうとう彼女の家に入った聡。しかしすぐに彼を見つめる老人に気が付いた。
「え、えっと・・・あちらはおじいさん?」
「え? あぁ、気にしないで。よく出るのよ、前に住んでいた人が」
答える彼女の背後にも、白い着物を着たお岩さんのような女性が立っている。なんと彼女の家は世界有数の幽霊屋敷だったのである。果たして聡はこんんあ状況下で初Hが出来るのか!?
なんて話じゃないんです。5月10日の日記からご覧ください。
「どうして僕はこんなことを・・・」
彼は自分に問い掛けた。しかし答えは明白だった。彼は「こんなこと」をするために作られた兵器であるのだから。だがその答えは彼に別の疑問を与えた。
「・・・なぜ僕はそんなことに疑問を持つんだ?」
思考回路があらゆる可能性を列挙する。すぐさまデータに照らし合わされ、最も確率の高い応えが弾き出された。
「・・・そうか・・・僕は人間だったんだ」
その場所で活動するのに最も適した形態を持っているのは、当然そこに住む生物である。また、そこに住む生物なら何か突発的な事故が起きても対応する知識があるはずだ。「彼ら」はその星に住む生物をさらい、その構造を模した兵器を作る。さらにその生物の頭の中身をコピーしたプログラムを搭載し、不測の事態に対応させるのだ。もちろん「彼ら」の命令どおりに動くように改変して。「征服の知恵」というやつだ。だが、人間の自我が「彼ら」の計算以上に強かった。そのため、彼は自分を取り戻してしまったのである。
「僕は何て事を・・・」
彼は辺りを見回し、自分のやった事を見て愕然とした。操られていたとはいえ、果たして何人の人間を殺してしまったのだろうか。しかし悔やんでばかりもいられない。
「だが・・・おまえらの好きにはさせない・・・」
彼は立ち上がった。彼の復讐と、彼のしてしまったことへの償いをするために。
(帰還プログラム起動)
彼の背中が割れて巨大なブースターが現れる。そして爆弾でも落ちたかのような轟音と閃光を残し、彼は大空へと飛び立った・・・
その後、彼の姿を見たものはいない。地球にはいまも人間が暮らしている。
〜おしまい〜
だんだん書いてて恥かしくなった。
2003年5月14日
その後
「できた・・・」
僕は書きあがったその小説に「帰ってきた地球征服君」という題名をつけて先生のところへ持っていった。
「ふ〜ん・・・」
小説を読み始めた途端、先生は難しい顔になった。
「どうでしょう?」
僕は不安になって尋ねてみる。
「う〜ん・・・『パルスレーザー』とは何かね?」
「え〜と・・・とにかくすごい武器だと思います」
科学の知識の少ない文系学生である僕は、言葉のもつ曖昧さを最大限に利用した。
「ふ〜む・・・」
しかしなんの感銘を受けた様子もなく、相変わらず先生は難しい顔のままだった。
「この小説の主題は何かね?」
「え、主題?」
もちろんそんなたいそうなものがこの小説にあるわけが無い。
「え〜と、『自分とは一体なんなのか』もしくは『果たして世界とはみんなが思っているようなものなのだろうか』。『もしかして自分はひどく異質なものなのかもしれない』『僕らは世界を全て知ったような気でいるが、世界には人々が知らないような存在がまだまだあるのではないか』そういったことですかね」
なもので、適当にありきたりな事を並べてみる。
「ありきたりだね」
「はぁ」
そして思いきり図星を指された。
「・・・やっぱり駄目ですかね?」
「ふ〜む・・・」
狭い教室で、僕と先生はそれぞれの理由で途方に暮れていた・・・